phantom pain。

Somewhere in one's heart。



狼は孤独だった。群れの中にいながら孤独だった。
「周りがおかしいんだ」と思っていたのに
変わっているのは自分だと気付いた日から
群れの中に自分の居場所を見出せなくなっていた。
ひとつの大きな意思の流れの中に自分の入り込む余地はなく
狼は皆にわからないようにひっそりと群れを出ていった。
群れを出てから、ある日狼は胸を患った。呼吸がとても苦しくなるものだった。
締め付けられるような感じがする時もあれば刺すような痛みのする時もあり
狼は「自分はもうすぐ死ぬんだ」と小さくため息をついた。
巣穴で最期を迎えようと歩いていた時だった。
視界の端に山羊を見付けた。まだ子供の山羊だ。
群れを出てからろくに狩りが出来ていなかった狼は
気配を消し、慎重に慎重に山羊に近付いていった。
あとは飛び出して襲いかかるだけ、という距離で山羊が振り向いた。
「逃がすものか」と狼は全身の筋肉を使い一気に飛びかかろうとした。
けれども、山羊の姿を見てそれをやめた。山羊は脚に重傷を負っていた。
恐らく他の狼に襲われて逃げて彷徨っていたのだろう。
山羊の姿を見て自分も死を覚悟していた事を思い出した狼は山羊に云った。
「確か近くに水場が在る。傷を癒し群れを探せ」
言葉を発した瞬間、山羊は驚いて全身を強張らせた。
それからこちらをじっと見つめて「ありがとう」と云った。
狼の胸が急激に痛んだ。脚が震えて立っていられなくなるほどだった。
苦しさのあまりへたり込んだ狼の目からは涙がこぼれていた。
狼は吠えた。どうしようもない痛みに。
胸を裂くような遠吠えは、狼が息を引き取るまで続いた。
[PR]
by ryu-cat | 2016-04-30 22:03 | 日常雑記 | Comments(0)


<< on your mark。 R→?。 >>