一陽来復・後編。

今になってやっと。



病院へ到着し、面会の手続きを済ませると
現在は無菌室で治療を行っている為、マスクを着け消毒をしてから病室へ案内されました。

ビニールのカーテンの向こうに変わり果てた父親が。
変わり果てていたのは頭髪だったけれども。

どうやら投薬のせいで抜け落ちたらしく
「どうしたん、心入れ替えて頭剃ったの?」と聞くと
「抜けちゃったの!」と半ばすねて返してきました。

すっかり病人といった感じではありましたが
医者が驚くほどのスピードで回復しているらしく、経過はとても順調という事でした。

そうして少し話していると、誰か知らない人が病室へ入ってきました。

父親に「誰?」と聞くと、「おばあちゃんや」と云います。
「だからおばあちゃんて誰やねん」とさらに聞くと
「やからおまえのおばあちゃんや」と答えます。

おばあちゃん……?
まさか、まだ父親と住んでいた時に一緒に暮らしていたおばあちゃんか!?

25年以上ぶりの再会だぞ!?

それでもおばあちゃんの方はすぐ解ったみたいで名前を呼んでくれました。

三人で少し話した後、実は彼女を連れて行っていたので
同じようにマスクと消毒をしてもらって病室で紹介しました。

父親は一応挨拶はきちんとしたけれど
挨拶の次の言葉が「かわいいやん、おれと付き合えへん?」とか
「こいつよりおれの方が男前やろ?」とかでした。

初対面で息子の彼女を口説く父親とか聞いた事がない。
らしいと云えばらしいんだけれどもさ。

それからおばあちゃんが筆者と彼女と三人で喫茶店に行こうと云ったので
病院の1階に在るカフェに三人で行きました。

始めは本当に解らなかったけれど、話していると昔のおばあちゃんを思い出しました。
確かにこの人に面倒を見てもらっていたなと。

それでも不思議なもので、何故か昔の記憶が殆ど無いんですよね。
だから、おばあちゃんが話す事は驚く事ばかりでした。

うちは昔格式高い武家で陰陽師と関わりもあり
その後は僧侶を多く輩出したりしていて、山を一つ所有していて
うちに在った刀を博物館が取りに来て展示したり
一族の本が数冊在って、歴史のドラマにも出てくるとかetc……。

うち一体どういう家!?

他にも父親が再婚してた事も在ったり、父親に妹が居て
筆者と似た年齢の男の子と女の子が居るとかいうもの驚きだったけれど
これは驚くわ、驚かずにいられないわ。

おばあちゃんも最初は嘘と思っていたらしいけれど
調べるとうちの歴史が本に書かれていたりするそうで信じたとか。

そもそもおばあちゃんが結婚したのは血を絶やさない為の結婚だったらしい。

筆者は大事な跡取りだったから大事に育てられていたようです。

筆者には昔の記憶も育った家も無いから
今になってようやく一般的な人と同じものを手に入れた気持ちです。

それと、一番驚いたのは、おばあちゃんが筆者の誕生日と年齢を覚えていた事。
毎年この時期になると、「今年で何歳になるな」と思っていたらしいです。

……本当に、もし父親と暮らして育っていたら、筆者の人生は全く違ったものになっただろう。

今の人生や、母親、今の父親に不満もなければ憎んでもいないけれど
あのおばあちゃんと父親と暮らしていたら、筆者は確実に幸せだったに違いない。

これは間違いないビジョンだと思う。
「幸せを感じられる人間」にきっと成れていた。

ただその時は、ここまで「考えられる人間」に成れていたかどうかは解らないけれど。

何にしても、本当にやっとだ。
やっと自分を知り始められた気がする。
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by ryu-cat | 2013-06-27 11:53 | 日常雑記 | Comments(0)


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